2013年10月18日
第18回 試飲会ノススメ
10月も半ばを過ぎ、米の収穫がひと段落すると、日本酒の蔵元ではそろそろ新酒の仕込みが始まります。その直前の10月初旬ぐらいまで、蔵元や杜氏たちは各地の地酒イベントに顔を出し、精一杯自社商品のPRに努めます。静岡県の場合、イベントは営業社員やキャンペーンガールにお任せ、なんて大手メーカーと違い、蔵元や杜氏が積極的に参加して自身の酒造りを熱く語る、という人が多く、参加者にとっても“顔の見える酒”をじっくり呑み比べることができるんですね。第15回【秋上がりの季節】(記事はこちら)で紹介したイベントの数々もそうでした。
今回は、顔が見える酒を真摯に提供する、蔵元の信頼篤い酒販店の主催イベントについてご紹介しましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
9月15日に清水マリンタワーで開かれた篠田酒店主催『第39回蔵元を囲むしのだ日本酒の会』は、静岡県だけでも磯自慢、英君、開運、臥龍梅、喜久醉、國香、小夜衣、志太泉、正雪、杉錦、萩錦、白隠正宗、初亀、金明、若竹というラインナップがそろい、これに他県から6蔵が加わり、ぜいたくな呑み比べが楽しめました。

2013年9月15日開催の第39回蔵元を囲むしのだ日本酒の会(清水マリンビル)
この会のスゴイところは、酒はすべて篠田酒店秘蔵酒という点。リストを見たら98番まであって、すべての酒に店主篠田和雄さんのコメントが添えられています。たとえば、
英君・特別純米袋吊りしずく取り生酒2012BY/香りも心地よいが、とろりとした旨みの広がりが見事な絶品!
開運・伝波瀬正吉・純米大吟醸斗瓶取り3番の口の取口生酒2009BY/当店の冷蔵庫から3年半ぶりに目覚めた無濾過生酒!丸みとやさしい旨みを味わってみてください。
森本(小夜衣)・純米熟成大古酒H・森本昔風2001年/らおちゅう???いえいえ、れっきとした日本酒です。10年以上も眠っていた熟成酒。旨みと丸みの琥珀。
白隠正宗・大吟醸斗瓶取り2004BY/しのだ酒の会で毎年出品している、今はなき幻の大吟醸。その味わいはまさに極上のバナナジュースなのだ!今回で最後か!
初亀・滝上秀三・純米大吟醸2003年/当店の低温冷蔵庫にてなんと10年冬眠していた秘蔵の大吟醸!その味わいは・・・超マニアックな世界に突入!
という調子。「銘柄」の後ろに「袋吊り」やら「斗瓶取り」やら人名やら製造年度だの、ずいぶん長いサブタイトルが付いているなと思われるでしょう? こういうタイトル(意味は購入先で聞いてみてください)が長ければ長いほど、こだわった限定酒というわけです。

蔵元を囲むしのだ日本酒の会 出品リスト
すぐにも売れる希少限定酒を、売らずに何年もストックしておくというのは、商売からみたらリスクが高いのに、篠田さんの会では、造った蔵元本人もビックリするような秘蔵酒や長期熟成酒がお目見えします。こんな会を40回近く続けているのですから、毎年つねに、すぐに売らずに保存しておく分まで仕入れるのでしょう。よほどの地酒愛がなければ出来ないこと。時々、お店のスタッフさんから「うちの社長は“オタク”が過ぎて困る」と愚痴を聞きます(笑)。
文字ギッシリの出品リストを目にして、「どれを呑んでいいのか選ぶのに難しそう・・・」「酒マニアしか解らないんじゃない?」なんて敬遠する人もいたかもしれませんが、長いサブタイトルの意味を蔵元さんに直接聞けば、酒造りの奥の深さがよく解るし、その蔵元さんの酒造りに対する姿勢や思いも伝わってきます。何より、こだわった造りや熟成によって、日本酒の味というものが、原料が米と水だけとは思えないほど多様性に富んでいることを実感できるでしょう。静岡のような小規模の蔵と個人商店が頑張っている地域だからこそ、体験の機会も多いんです。こういう体験を出来るだけ多くの人に、可能な限り積み重ねて欲しいですね。
ふだんは篠田酒店エスパルスドリームプラザ店の試飲コーナーで、スペシャルな銘柄が有料試飲できますから、気軽に利用してみてください。
◆篠田酒店エスパルスドリームプラザ店
http://www.dream-plaza.co.jp/shop/food/
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
9月29日(日)、御殿場の森の腰ショッピングセンター・エピの2階ホールで開かれた『酒のいわせ日本酒有料試飲会』は、静岡県から金明、白隠正宗、初亀、喜久醉の4社、県外から4社が参加しました。御殿場市内でこの手の試飲会は初めて。主催した酒のいわせが、御殿場で地酒文化を育てようと手弁当で企画準備されたんです。これまで、岩瀬さんが酒を納入する飲食店さんで、蔵元をゲストに招いて酒と料理の会を開くというケースはあったのですが、蔵元主役の試飲イベントとしては、記念すべき第1回の開催でした。

2013年9月29日開催の酒のいわせ日本酒試飲会(御殿場森の腰ショッピングセンター・エピ)
地酒の試飲イベントでは、場慣れしていないと、酒ではなく、料理のコーナーに真っ先に行ってしまうお客さんがいます。静岡県酒造組合が主催する県下最大の試飲イベント・静岡県地酒まつりが始まったばかりの頃(今から25~26年前)もそうでした。飲食店が会場の試飲会ならまだしも、蔵元衆が主催する試飲パーティーで、まず料理コーナーに人だかりが出来る現象にビックリ。酒の取材を始めたばかりの身で、貴重な試飲修業になるぞ!と呑む気満々で参加した私は、「この人たち何の目的で来たんだろう?」と首をかしげたものでした。
御殿場市で初めて開かれたこの試飲会も、最初のうちは、料理コーナーに人が集まって、蔵元さんはブースで手持ち無沙汰。私は私で、酒ブースをのんびりはしごし、自在に試飲を楽しむ時間が持てましたが、しばらくすると、酒の各ブースに二重三重と人の波。蔵元と話をしたくても順番待ち状態になりました。先に試飲したお客さんが他のお客さんを「あれ呑んでみなよ」「こっちも美味しいよ」と誘導し、みんなが酒の美味しさをシェアし始めたんですね。
思い返すと、25年前の静岡県地酒まつりで蔵元ブースに直接足を向ける人は、ごく一部の酒通と、個人的な知り合いか仕事上の付き合い、という感じでした。一方、この会では、岩瀬さんは知っていても蔵元には初めて会うという人が多かったでしょう。酒ブースに自然に人が集まったのは、純粋に試飲を楽しんだ証拠だと思います。
東京のように飲酒人口の多い都市部で開く蔵元参加の試飲イベントでは、料理が全然減らない、なんてケースも珍しくありません。静岡でも試飲慣れ?した人がずいぶん増え、今月1日にホテルセンチュリー静岡で開かれた静岡県地酒まつりも、料理ブースは閑散とし、蔵元ブースは黒山の人だかりでした。
こういう変化に出遭えたというのは、造り手と売り手、25年の努力の結晶に相違ありません。御殿場で初めて開かれたこの会も、プログラムにきき酒や二日酔いケアのノウハウを紹介したり、仕込み水をたっぷり用意するなど、岩瀬さんのおもてなし精神が奏功し、試飲会初参加のお客さんも十分に楽しんでいるようでした。

酒のいわせ 日本酒試飲会プログラムの一部
最初に呑んだ酒、最初に参加した試飲会に好印象を持つと、かなりの確率でリピーターになってくれます。個人酒販店の試飲会開催では草分け的存在の篠田さん、今年初めて開催の岩瀬さん・・・ともに、最初にやるというリスクや責任を受け止め、試飲の場づくりに挑んだ―こういう売り手が存在する限り、清水も御殿場も、地酒の優良消費地になるだろうなあと嬉しくなります。
岩瀬さんの初試飲会には、地元精肉店『渡辺ハム工房』が特別出店しました。同店では毎月29日(にくの日)に、岩瀬さんとコラボして地酒の店頭試飲会「29BAR(にくバル)」を開催しています。渡辺さんの絶品生ハム「ふじやまプロシュート」は、静岡県主催の平成23年度ふじのくに新商品セレクションで最高金賞を受賞した逸品。ほどよい塩味が純米系の地酒によく合います。ぜひお試しを!
◆酒のいわせ http://www.sakenoiwase.com/
◆渡辺ハム工房 http://nikuaji.com/
今回は、顔が見える酒を真摯に提供する、蔵元の信頼篤い酒販店の主催イベントについてご紹介しましょう。
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9月15日に清水マリンタワーで開かれた篠田酒店主催『第39回蔵元を囲むしのだ日本酒の会』は、静岡県だけでも磯自慢、英君、開運、臥龍梅、喜久醉、國香、小夜衣、志太泉、正雪、杉錦、萩錦、白隠正宗、初亀、金明、若竹というラインナップがそろい、これに他県から6蔵が加わり、ぜいたくな呑み比べが楽しめました。

2013年9月15日開催の第39回蔵元を囲むしのだ日本酒の会(清水マリンビル)
この会のスゴイところは、酒はすべて篠田酒店秘蔵酒という点。リストを見たら98番まであって、すべての酒に店主篠田和雄さんのコメントが添えられています。たとえば、
英君・特別純米袋吊りしずく取り生酒2012BY/香りも心地よいが、とろりとした旨みの広がりが見事な絶品!
開運・伝波瀬正吉・純米大吟醸斗瓶取り3番の口の取口生酒2009BY/当店の冷蔵庫から3年半ぶりに目覚めた無濾過生酒!丸みとやさしい旨みを味わってみてください。
森本(小夜衣)・純米熟成大古酒H・森本昔風2001年/らおちゅう???いえいえ、れっきとした日本酒です。10年以上も眠っていた熟成酒。旨みと丸みの琥珀。
白隠正宗・大吟醸斗瓶取り2004BY/しのだ酒の会で毎年出品している、今はなき幻の大吟醸。その味わいはまさに極上のバナナジュースなのだ!今回で最後か!
初亀・滝上秀三・純米大吟醸2003年/当店の低温冷蔵庫にてなんと10年冬眠していた秘蔵の大吟醸!その味わいは・・・超マニアックな世界に突入!
という調子。「銘柄」の後ろに「袋吊り」やら「斗瓶取り」やら人名やら製造年度だの、ずいぶん長いサブタイトルが付いているなと思われるでしょう? こういうタイトル(意味は購入先で聞いてみてください)が長ければ長いほど、こだわった限定酒というわけです。

蔵元を囲むしのだ日本酒の会 出品リスト
すぐにも売れる希少限定酒を、売らずに何年もストックしておくというのは、商売からみたらリスクが高いのに、篠田さんの会では、造った蔵元本人もビックリするような秘蔵酒や長期熟成酒がお目見えします。こんな会を40回近く続けているのですから、毎年つねに、すぐに売らずに保存しておく分まで仕入れるのでしょう。よほどの地酒愛がなければ出来ないこと。時々、お店のスタッフさんから「うちの社長は“オタク”が過ぎて困る」と愚痴を聞きます(笑)。
文字ギッシリの出品リストを目にして、「どれを呑んでいいのか選ぶのに難しそう・・・」「酒マニアしか解らないんじゃない?」なんて敬遠する人もいたかもしれませんが、長いサブタイトルの意味を蔵元さんに直接聞けば、酒造りの奥の深さがよく解るし、その蔵元さんの酒造りに対する姿勢や思いも伝わってきます。何より、こだわった造りや熟成によって、日本酒の味というものが、原料が米と水だけとは思えないほど多様性に富んでいることを実感できるでしょう。静岡のような小規模の蔵と個人商店が頑張っている地域だからこそ、体験の機会も多いんです。こういう体験を出来るだけ多くの人に、可能な限り積み重ねて欲しいですね。
ふだんは篠田酒店エスパルスドリームプラザ店の試飲コーナーで、スペシャルな銘柄が有料試飲できますから、気軽に利用してみてください。
◆篠田酒店エスパルスドリームプラザ店
http://www.dream-plaza.co.jp/shop/food/
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9月29日(日)、御殿場の森の腰ショッピングセンター・エピの2階ホールで開かれた『酒のいわせ日本酒有料試飲会』は、静岡県から金明、白隠正宗、初亀、喜久醉の4社、県外から4社が参加しました。御殿場市内でこの手の試飲会は初めて。主催した酒のいわせが、御殿場で地酒文化を育てようと手弁当で企画準備されたんです。これまで、岩瀬さんが酒を納入する飲食店さんで、蔵元をゲストに招いて酒と料理の会を開くというケースはあったのですが、蔵元主役の試飲イベントとしては、記念すべき第1回の開催でした。

2013年9月29日開催の酒のいわせ日本酒試飲会(御殿場森の腰ショッピングセンター・エピ)
地酒の試飲イベントでは、場慣れしていないと、酒ではなく、料理のコーナーに真っ先に行ってしまうお客さんがいます。静岡県酒造組合が主催する県下最大の試飲イベント・静岡県地酒まつりが始まったばかりの頃(今から25~26年前)もそうでした。飲食店が会場の試飲会ならまだしも、蔵元衆が主催する試飲パーティーで、まず料理コーナーに人だかりが出来る現象にビックリ。酒の取材を始めたばかりの身で、貴重な試飲修業になるぞ!と呑む気満々で参加した私は、「この人たち何の目的で来たんだろう?」と首をかしげたものでした。
御殿場市で初めて開かれたこの試飲会も、最初のうちは、料理コーナーに人が集まって、蔵元さんはブースで手持ち無沙汰。私は私で、酒ブースをのんびりはしごし、自在に試飲を楽しむ時間が持てましたが、しばらくすると、酒の各ブースに二重三重と人の波。蔵元と話をしたくても順番待ち状態になりました。先に試飲したお客さんが他のお客さんを「あれ呑んでみなよ」「こっちも美味しいよ」と誘導し、みんなが酒の美味しさをシェアし始めたんですね。
思い返すと、25年前の静岡県地酒まつりで蔵元ブースに直接足を向ける人は、ごく一部の酒通と、個人的な知り合いか仕事上の付き合い、という感じでした。一方、この会では、岩瀬さんは知っていても蔵元には初めて会うという人が多かったでしょう。酒ブースに自然に人が集まったのは、純粋に試飲を楽しんだ証拠だと思います。
東京のように飲酒人口の多い都市部で開く蔵元参加の試飲イベントでは、料理が全然減らない、なんてケースも珍しくありません。静岡でも試飲慣れ?した人がずいぶん増え、今月1日にホテルセンチュリー静岡で開かれた静岡県地酒まつりも、料理ブースは閑散とし、蔵元ブースは黒山の人だかりでした。
こういう変化に出遭えたというのは、造り手と売り手、25年の努力の結晶に相違ありません。御殿場で初めて開かれたこの会も、プログラムにきき酒や二日酔いケアのノウハウを紹介したり、仕込み水をたっぷり用意するなど、岩瀬さんのおもてなし精神が奏功し、試飲会初参加のお客さんも十分に楽しんでいるようでした。

酒のいわせ 日本酒試飲会プログラムの一部
最初に呑んだ酒、最初に参加した試飲会に好印象を持つと、かなりの確率でリピーターになってくれます。個人酒販店の試飲会開催では草分け的存在の篠田さん、今年初めて開催の岩瀬さん・・・ともに、最初にやるというリスクや責任を受け止め、試飲の場づくりに挑んだ―こういう売り手が存在する限り、清水も御殿場も、地酒の優良消費地になるだろうなあと嬉しくなります。
岩瀬さんの初試飲会には、地元精肉店『渡辺ハム工房』が特別出店しました。同店では毎月29日(にくの日)に、岩瀬さんとコラボして地酒の店頭試飲会「29BAR(にくバル)」を開催しています。渡辺さんの絶品生ハム「ふじやまプロシュート」は、静岡県主催の平成23年度ふじのくに新商品セレクションで最高金賞を受賞した逸品。ほどよい塩味が純米系の地酒によく合います。ぜひお試しを!
◆酒のいわせ http://www.sakenoiwase.com/
◆渡辺ハム工房 http://nikuaji.com/
Posted by 日刊いーしず at 12:00