2014年04月11日
第24回 花の舞de花見酒
しばらく杯ごと眠っておりましたが、新酒が出揃う春の声を聞き、目醒めました。桜もそろそろ散りかける頃。みなさま、花見酒はお楽しみになりましたか?
しずおか地酒研究会では、浜松市で開催中の浜名湖花博2014はままつフラワーパーク会場で、4月5日~6日と、「花の舞de花見酒」という試飲イベントを開催しました。

世界一の桜とチューリップが魅力、はままつフラワーパーク

21時まで楽しめる夜桜チューリップは4月13日まで
10年前の花博では、樹木医塚本こなみ先生の仲介で、庭文化創造館という主催者パビリオンで地酒テイスティングサロンを開いたご縁を活かし、10周年記念の今回、こなみ先生が理事長を務めるはままつフラワーパークで試飲イベントを行うことになったのです。
今回はフラワーパーク側が甘酒の無料サービスを希望していたことを考慮し、地元浜松の花の舞酒造より搾りたての酒粕を提供していただいて、フラワーパーク内レストランの料理長が甘酒に仕上げ、これを試飲会場の「花の休憩所」へ運んでふるまいました。花の舞酒造には酒粕を無償提供してもらうかわりに、商品の試飲販売が出来るよう取り計らい、しずおか地酒研究会から私を含め会員3名が参加して接客を行ないました。ちなみに予算ゼロなので、すべて手弁当での参加です(苦笑)。

花の休憩所の試飲会場。甘酒サービスに長い行列
花の舞酒造は県内最大規模の酒蔵です。そんな大店の販促活動になぜボランティア協力するの?と思われるかもしれませんが、しずおか地酒研究会は“川上”ではなく、“川下”にあって隣近所に地酒ファンを増やしたいというのが活動の第一義にあります。“川中以上”の愛飲家を対象にした酒イベントと違い、一般の観光イベント会場は日本酒を初めて飲む、地酒に初めて出会うというお客さんが多く、確実に、潜在的な地酒ファン獲得につながります。会場に最も近く、十分な商品供給能力を持つ花の舞酒造なら、柔軟に対応してくれると考えました。
と ころがフタを開けてみたら準備が大変でした。花博のような屋外イベントで、フリー客を対象にした試飲販売を行なうには、税務署や保健所から許可を得る必要があります。その許可取りが、思った以上に難しいんですね。
お祭りの屋台でコップ売りするビールや日本酒は、食品衛生管理責任者がいれば可能だそうですが、未開封の酒を商品として販売するには、税務署が発行する移動販売免許が必要になります。その免許取得には、実際の試飲会場はパーク内のどこか地図上で正確に示さねばならず、その場所もちゃんと屋根付きか、水場やゴミを捨てるスペースは確保されているか等など、厳しくチェックされます。
花の舞酒造ではこの手の申請準備に慣れたベテラン社員があいにく不在で、なんと、杜氏の土田一仁さんが担当することに。「僕もこういうの初めてなんで、慣れなくてねえ」と頭をかきながら、すべてお一人で手続きをこなし、ギリギリ開催に間に合ったのです。
しかもイベント2日間とも自ら店頭に立ち、お客さんに丁寧に商品解説。社員なら当然と言えばそれまでですが、1991年に社員から杜氏に抜擢された社員杜氏の先駆けとして酒造りを長年指揮し、今は静岡県杜氏研究会会長も務める土田さんに、こんなことさせちゃっていいのかなぁと冷や汗をかきました。

甘酒をふるまう土田さん(左)、地酒研会員の高島さん(中)、塚本こなみ理事長(白帽子)
杜氏自ら陣頭に立っての試飲販売。お客さんにとってはメリットがありますよね。言っちゃあ何だけど、雇われバイトやコンパニオンから勧められる酒よりも、造った杜氏さんから勧めてもらう酒のほうが“重み”がある。試飲販売に不慣れな私も、2日間、土田さんの接客トークを聞いて、どんなふうに勧めればお客さんのハートをつかめるか、コツが解った気がしました。
たとえば、今回よく売れた『花の舞純米SAKEドルチェ』。デザートワインのような甘さがウリです。こういう酒を好むのは、内心、酒に飲みなれない女性や若い人だけだろうと思っていましたが、「もろみが醗酵する段階で、米のデンプンの甘みが次第にアルコールに変化していく。その、変化しきらない途中であえて止め、米の甘みや旨味が残る絶妙なタイミングで搾って詰める。未開封で長期保存すれば瓶の中で醗酵し続け、そのまま辛口のアルコールになるんです。決して甘味を添加した酒ではありません」と土田さんが丁寧に説明するのを聞いて、米が自然醗酵する日本酒ならではの面白さを味わう酒なんだと開眼しました。たまたまお昼にカレーを食べた後にこの酒を試飲したところ、口中がふんわりまろやかになり、本当に上質なデザートを味わったような気分。「これぞ食後酒」と納得させられました。
発泡酒の『ぷちしゅわ日本酒 ちょびっと乾杯』ではイチゴ味が好評でした。ブースにやってきた酒通と思われる妙齢の女性は、最初、「何これ?こんなの酒じゃないでしょ?」みたいな顔をしていたのですが、そばで若いカップルが「おいしい~!」と楽しそうに飲んでいるのを見て試飲コップに手を伸ばし、すべての試飲をし終わった後で、「珍しい酒だから」と購入したのがイチゴ味でした。イチゴ味といっても静岡県産いちご章姫をピューレ状にし、静岡県産山田錦で醸した微発泡純米酒とブレンドした、静岡でしか生まれ得ない味です。ちょこっとそんな能書きを説明すると、やはり感じ方が変わるんでしょうね。照れくさそうに、でも笑顔で帰っていったその女性の背中を、私も幸せな気持ちで見送りました。

今回試飲販売した花の舞ラインナップ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「花見酒de花の舞」前夜の4月4日、静岡市内で杜氏の技の伝承をテーマにしたしずおか地酒サロンを開催しました(詳細は私の個人ブログ『杯が乾くまで』(こちらの記事)をご参照ください)。
ここでたまたま、講師の松崎晴雄先生から「昔ながらの杜氏は、雇用主の蔵元の意向に沿い、蔵のある土地柄や地域性に合った酒を造る」「蔵元杜氏は、自分が理想とする酒を同世代の人たちに飲んでもらおうとメッセージ性のある酒を造る」「社員杜氏は醸造学を学び、器用にそつなく造る」と解説してもらいました。
花の舞酒造の土田さんは、社員から杜氏に抜擢された人ですが、松崎さんが言うところの「昔ながらの杜氏」の魂を持ち、蔵元の難しいオーダーにも「器用にそつなく」応える。
3月に開かれた静岡県清酒鑑評会では、土田さんの大吟醸が見事最高位(吟醸の部県知事賞)に輝きました。受賞した出品酒を飲ませてもらったときは「土田さんが理想とする本来の花の舞とはこういう味か・・・」と実感しました。

花の舞酒造杜氏の土田一仁さん
そんな、松崎先生が挙げた杜氏の要素をすべて兼ね備えているような土田さんが、イベント会場で一般客を相手に汗する姿に、最初は複雑な思いもしましたが、土田さんが園内を見回し、塚本こなみ理事長がジャンパー姿で一所懸命水をまき、ゴミを拾って歩く姿を目撃し、「あの人はすごいな、ホンモノだ・・・」とつぶやいたときはハッとしました。理事長自ら、フラワーパーク園内に落ちているゴミ一つにも心を配るように、杜氏は自分が醸した酒がお客さんの口に入る最後の最後まで、責任を持とうとしている。・・・二人のプロの高潔な精神に、じんわり感動を覚えたのでした。
楽しい楽しい花見酒。その陰で、さまざまな人々が、信念を賭して自分の仕事に打ち込んでいることに、ほんの少し思いを寄せてくださいね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はままつフラワーパークでのしずおか地酒サロン、5月17日(土)14時~16時、花みどり館にて『喜久醉』の蔵元杜氏・青島孝さんと塚本こなみ理事長のトークセッションを開催します。喜久醉の試飲、私が製作している地酒ドキュメンタリー『吟醸王国しずおか』パイロット版の上映も行ないます。花博入場料(大人800円)はかかりますが、地酒サロンは参加無料、事前申込不要ですので、ふるってお越しください!
しずおか地酒研究会では、浜松市で開催中の浜名湖花博2014はままつフラワーパーク会場で、4月5日~6日と、「花の舞de花見酒」という試飲イベントを開催しました。
世界一の桜とチューリップが魅力、はままつフラワーパーク
21時まで楽しめる夜桜チューリップは4月13日まで
10年前の花博では、樹木医塚本こなみ先生の仲介で、庭文化創造館という主催者パビリオンで地酒テイスティングサロンを開いたご縁を活かし、10周年記念の今回、こなみ先生が理事長を務めるはままつフラワーパークで試飲イベントを行うことになったのです。
今回はフラワーパーク側が甘酒の無料サービスを希望していたことを考慮し、地元浜松の花の舞酒造より搾りたての酒粕を提供していただいて、フラワーパーク内レストランの料理長が甘酒に仕上げ、これを試飲会場の「花の休憩所」へ運んでふるまいました。花の舞酒造には酒粕を無償提供してもらうかわりに、商品の試飲販売が出来るよう取り計らい、しずおか地酒研究会から私を含め会員3名が参加して接客を行ないました。ちなみに予算ゼロなので、すべて手弁当での参加です(苦笑)。
花の休憩所の試飲会場。甘酒サービスに長い行列
花の舞酒造は県内最大規模の酒蔵です。そんな大店の販促活動になぜボランティア協力するの?と思われるかもしれませんが、しずおか地酒研究会は“川上”ではなく、“川下”にあって隣近所に地酒ファンを増やしたいというのが活動の第一義にあります。“川中以上”の愛飲家を対象にした酒イベントと違い、一般の観光イベント会場は日本酒を初めて飲む、地酒に初めて出会うというお客さんが多く、確実に、潜在的な地酒ファン獲得につながります。会場に最も近く、十分な商品供給能力を持つ花の舞酒造なら、柔軟に対応してくれると考えました。
と ころがフタを開けてみたら準備が大変でした。花博のような屋外イベントで、フリー客を対象にした試飲販売を行なうには、税務署や保健所から許可を得る必要があります。その許可取りが、思った以上に難しいんですね。
お祭りの屋台でコップ売りするビールや日本酒は、食品衛生管理責任者がいれば可能だそうですが、未開封の酒を商品として販売するには、税務署が発行する移動販売免許が必要になります。その免許取得には、実際の試飲会場はパーク内のどこか地図上で正確に示さねばならず、その場所もちゃんと屋根付きか、水場やゴミを捨てるスペースは確保されているか等など、厳しくチェックされます。
花の舞酒造ではこの手の申請準備に慣れたベテラン社員があいにく不在で、なんと、杜氏の土田一仁さんが担当することに。「僕もこういうの初めてなんで、慣れなくてねえ」と頭をかきながら、すべてお一人で手続きをこなし、ギリギリ開催に間に合ったのです。
しかもイベント2日間とも自ら店頭に立ち、お客さんに丁寧に商品解説。社員なら当然と言えばそれまでですが、1991年に社員から杜氏に抜擢された社員杜氏の先駆けとして酒造りを長年指揮し、今は静岡県杜氏研究会会長も務める土田さんに、こんなことさせちゃっていいのかなぁと冷や汗をかきました。
甘酒をふるまう土田さん(左)、地酒研会員の高島さん(中)、塚本こなみ理事長(白帽子)
杜氏自ら陣頭に立っての試飲販売。お客さんにとってはメリットがありますよね。言っちゃあ何だけど、雇われバイトやコンパニオンから勧められる酒よりも、造った杜氏さんから勧めてもらう酒のほうが“重み”がある。試飲販売に不慣れな私も、2日間、土田さんの接客トークを聞いて、どんなふうに勧めればお客さんのハートをつかめるか、コツが解った気がしました。
たとえば、今回よく売れた『花の舞純米SAKEドルチェ』。デザートワインのような甘さがウリです。こういう酒を好むのは、内心、酒に飲みなれない女性や若い人だけだろうと思っていましたが、「もろみが醗酵する段階で、米のデンプンの甘みが次第にアルコールに変化していく。その、変化しきらない途中であえて止め、米の甘みや旨味が残る絶妙なタイミングで搾って詰める。未開封で長期保存すれば瓶の中で醗酵し続け、そのまま辛口のアルコールになるんです。決して甘味を添加した酒ではありません」と土田さんが丁寧に説明するのを聞いて、米が自然醗酵する日本酒ならではの面白さを味わう酒なんだと開眼しました。たまたまお昼にカレーを食べた後にこの酒を試飲したところ、口中がふんわりまろやかになり、本当に上質なデザートを味わったような気分。「これぞ食後酒」と納得させられました。
発泡酒の『ぷちしゅわ日本酒 ちょびっと乾杯』ではイチゴ味が好評でした。ブースにやってきた酒通と思われる妙齢の女性は、最初、「何これ?こんなの酒じゃないでしょ?」みたいな顔をしていたのですが、そばで若いカップルが「おいしい~!」と楽しそうに飲んでいるのを見て試飲コップに手を伸ばし、すべての試飲をし終わった後で、「珍しい酒だから」と購入したのがイチゴ味でした。イチゴ味といっても静岡県産いちご章姫をピューレ状にし、静岡県産山田錦で醸した微発泡純米酒とブレンドした、静岡でしか生まれ得ない味です。ちょこっとそんな能書きを説明すると、やはり感じ方が変わるんでしょうね。照れくさそうに、でも笑顔で帰っていったその女性の背中を、私も幸せな気持ちで見送りました。
今回試飲販売した花の舞ラインナップ
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「花見酒de花の舞」前夜の4月4日、静岡市内で杜氏の技の伝承をテーマにしたしずおか地酒サロンを開催しました(詳細は私の個人ブログ『杯が乾くまで』(こちらの記事)をご参照ください)。
ここでたまたま、講師の松崎晴雄先生から「昔ながらの杜氏は、雇用主の蔵元の意向に沿い、蔵のある土地柄や地域性に合った酒を造る」「蔵元杜氏は、自分が理想とする酒を同世代の人たちに飲んでもらおうとメッセージ性のある酒を造る」「社員杜氏は醸造学を学び、器用にそつなく造る」と解説してもらいました。
花の舞酒造の土田さんは、社員から杜氏に抜擢された人ですが、松崎さんが言うところの「昔ながらの杜氏」の魂を持ち、蔵元の難しいオーダーにも「器用にそつなく」応える。
3月に開かれた静岡県清酒鑑評会では、土田さんの大吟醸が見事最高位(吟醸の部県知事賞)に輝きました。受賞した出品酒を飲ませてもらったときは「土田さんが理想とする本来の花の舞とはこういう味か・・・」と実感しました。
花の舞酒造杜氏の土田一仁さん
そんな、松崎先生が挙げた杜氏の要素をすべて兼ね備えているような土田さんが、イベント会場で一般客を相手に汗する姿に、最初は複雑な思いもしましたが、土田さんが園内を見回し、塚本こなみ理事長がジャンパー姿で一所懸命水をまき、ゴミを拾って歩く姿を目撃し、「あの人はすごいな、ホンモノだ・・・」とつぶやいたときはハッとしました。理事長自ら、フラワーパーク園内に落ちているゴミ一つにも心を配るように、杜氏は自分が醸した酒がお客さんの口に入る最後の最後まで、責任を持とうとしている。・・・二人のプロの高潔な精神に、じんわり感動を覚えたのでした。
楽しい楽しい花見酒。その陰で、さまざまな人々が、信念を賭して自分の仕事に打ち込んでいることに、ほんの少し思いを寄せてくださいね。
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はままつフラワーパークでのしずおか地酒サロン、5月17日(土)14時~16時、花みどり館にて『喜久醉』の蔵元杜氏・青島孝さんと塚本こなみ理事長のトークセッションを開催します。喜久醉の試飲、私が製作している地酒ドキュメンタリー『吟醸王国しずおか』パイロット版の上映も行ないます。花博入場料(大人800円)はかかりますが、地酒サロンは参加無料、事前申込不要ですので、ふるってお越しください!
Posted by 日刊いーしず at 12:00